車多酒造創業二百年 対談インタビュー

石川県は日本全国47都道府県の中でも、レベルが高く、おいしい日本酒の産地として知られている。“ベスト10”みたいな順位をつけるような野暮なことをするつもりは毛頭ないが、5本の指に入ることに異論を唱える人はまずいないだろう。

その中でも人気の高い“天狗舞”を造っている車多酒造の車多一成さんと御縁を持ったのは数年前。お会いする度においしいお酒を飲みながら、楽しい時間を過ごしているが、白山市坊丸町にある車多酒造を訪れた時に、200年の歴史を感じさせる風格のある建物に“なるほどな”という思いをいだいたことをとてもよく覚えている。

そして、そんな流れの中で“車多酒造創業二百年記念”のイベントとして“Super Audio live”を“江戸蔵”と呼ばれている酒蔵で開催することになった。6月10日の土曜日。午後2時の開演の前に車多さんとウォーミングアップする感じで話をした。

 

立川直樹(以下NT) 前に“江戸蔵”に案内してもらった時に、ここで音楽が鳴ったらすごいだろうなと思ったんですけど、実際にテクニクスのスーパー・オーディオをセットしてサウンドチェックをしてみたら驚きました。本当に素晴らしい鳴り具合で。楽しみにしてください。

車多一成(以下KS) 今日はおじいちゃんおばあちゃんから0歳児まで幅広くいますので、是非よろしくお願いします。

NT いい音楽は完全に年齢は超越しているし、喜多郎の野外コンサートの会場で僕の友人の生後6ヶ月になる男の子が幸福そうな表情で眠っていて、みんなで“いい音楽”の力ってすごいねって話したこと、思い出しました。

KS いい話ですね。

NT 僕は今回、この素晴らしい酒蔵に音楽の魂のようなものを入れたいと思ったんですよ。だからオープニングにかける曲は割とすぐにひらめいた。1958年、それこそ車多さんがまだ生まれていない頃に、「ヴォラーレ」という曲がアメリカでもミリオンセラーになって、その名を轟かせたイタリアのカンツォーネ歌手、ドメニコ・モドゥーニョが生まれ故郷へのノスタルジーをこめて1971年に作った名盤「シチリアの郷愁」のオープニングを飾っていた「ブドウの収穫期の昼と夜」。そのものずばりの歌なんですけど、モドゥーニョの歌もサウンドもとても映像的で……労働の讃歌みたいな感じがするんです。

KS みなさん本当に楽しみにして来られてます。私どものお客様と私の友人と親族です。

NT それはまたイタリアっぽくていいですね。そして最初に話ましたけど、音楽とお酒って、お酒だったらおいしいっていうのと、音楽だったらいいっていうのと、普遍的に世代とか地域など超えて存在していますよね。

KS そうですね。例えば、当社だったら、メインが山廃純米酒なんですけど、これはいろいろなお料理と合わせてしっかりと旨みを感じてもらえる、ペアリングが出来るお酒なんです。音楽でもそういうものがあるでしょうね。

NT 料理とお酒のように、音楽とお酒の関係っていうのが絶対にあると思います。ここ数年、本当に多くなった和食屋さんでJAZZがただ流れているようなのって、料理もお酒もおいしくなくなってしまう。映画のサウンドトラックのように、例えば2時間の食事で季節とか一緒に食べる人たちとかをお店が選んでかけてくれたらいいのになって思いますね。


KS 私もいろんな飲食店に行くんですけど、やはり音楽で雰囲気を盛り上げてくれたりとか落ち着かせてくれたりとか、ここでこの音楽いらないよなとか・・・ありますね。

NT お酒にも同じようなことがあって、料理が出てきた時に、そこに車多さんがいて、これだったらこれですよって勧めてくれたら最高だと思うけど、余りお酒を知らない人がなんでこの料理にこんな重いお酒がっていうようなのが出てきたり……料理が少し重くてちょっと違うお酒が欲しいなって思った時に、1杯だけこれ飲んでみませんかって勧めてくれるような店っていいんですよね。

KS 広尾にあるお寿司屋さんがあって、一貫ごとにペアリングを変えていただいて…日本酒だったり、ワインだったり、焼酎のとても香りの華やかなものが出てきたりだとか、それがすごくマッチングするのがおもしろかった。

NT よくわかります。これだ!って決めすぎない方がいいし…僕もレコードとCDを使ってやるオーディオ・ライブは素材は準備しますけど、曲の流れだとかはその日の感じで決めていくようにしてるんです。

KS きょうのイベント、本当に楽しみになってきました。

NT イベントと言えば、箱根に“円かの杜”という旅館で、“日本酒ナイト”をプロデュースしているんですよ。藤田千恵子さんと一緒にお酒を選び、料理に合わせて、普通は冷で飲むけど、お燗にしようとか試食と試飲をしながらメニューを決めて、本番の時はそれに音楽も合わせていくという……

KS 藤田さんって、自分のおウチの料理も2時間ぐらいかけてペアリングしながら楽しんでらっしゃるんですよね。

NT 彼女は本物です。もう25年以上のおつきあいになるんですけど、日本酒に関係する仕事の時はまず彼女に連絡します。すごくわかっているし、それでいて押しつけがましくないし、何より選び方がいい。派手なお酒だけ選ぶ人とは一線を画しています。

KS 今の世の中の流れが派手なお酒を選ぶような流れになっているように思うんですよね。ウチのお酒はどちらかというと落ち着いて飲んで欲しいお酒なんです。

NT 音楽もそうなんですよ。音楽だけじゃなく映画もとっつきが派手なものがもてはやされてビジネスになっている。でも、派手なものはバッとくるけど奥行きがない。それに対して残るものって余韻がありますよね。僕は天狗舞を頂いた時の奥行きと広がりが好きなんですよ。

KS ありがとうございます。ウチの父と先代の杜氏が米の旨味と味わいの奥行きを意識して作っていたので、それが今でもつながってきています。

NT しっかりしていても重くない。あれが僕はすごいと思う。

KS 最後のキレが、何と言うか、旨いだけじゃなくてスパッと切れるような、ちょっとした苦さってあると思うんですよ。ほろ苦さというか。それがウチの日本酒の特徴というかポイントだと思います。

NT 御本人から話を聞くと実にわかりやすい。僕はあの、ずうっと残っちゃうのがちょっと苦手なんですよ。

KS ウチは余韻が長過ぎないような形でやっています。ほろ苦さというか、苦いのは食品ではいいイメージはないですけど、日本酒についてはその苦さがウチの蔵のアドバンテージになっているのかなと思っています。

NT 今度、どこかの料理屋さんで、この料理にはこれだってのを全部天狗舞をペアリングしてやってみたいですね。

KS おもしろいですね。是非やりたいですね。そう言えば今度また東急さん(金沢東急ホテル)でイベントされるんですよね?

NT 7月4日にやります。

KS その日は残念ながら参加できないんですが、皆さん楽しみにされてますよね。

NT “いしかわを食べる”と題して始めたんですが、おかげさまで毎回完売。今度で5回目になります。料理とシャンパン、ワインの試食、試飲もきっちりやって、会場のしつらえも……どこか映画を作っているようなところもあります。

KS なるほどね。

NT こうやって話していると、さっき話したイベント、早くやりたくなってきました。

KS 是非天狗舞と五凛とで。天狗舞は山廃がメインなんですけど、五凛は若い人にも飲んで頂けるような食中酒なので、それも含めた形で是非お願いしたいです。


こんな話をしてから酒蔵に入り、ドメニコ・モドゥーニョを3曲、オープニングにかけてから、たくさんのカバーがあるレナード・コーエンの名曲「ハレルヤ」、ビリー・ホリデイの「柳よ泣いておくれ」、ニーナ・シモンの「悲しき願い」、レイ・チャールズの「ソング・フォー・ユー」、ジョン・レノンの「マインド・ゲーム」、ハービー・ハンコック・プロジェクトの「イマジン」、サイモン&ガーファンクルの「明日に架ける橋」、ロッド・スチュワートの「セイリング」と名曲にして名演のオンパレード。テクニクスのスーパーオーディオ・システムは本当に目の前で、ジョン・レノンやサーモン&ガーファンクルが歌っているような錯覚を起こさせるほど再現性が高いものだが、1曲流れるごとに拍手が起き、僕の解説にうなずいてくれる人もいて、いいイベントになった。

「明日に架ける橋」で創業200周年からまた新たに始まる旅を予見させて。締めにはアート・ガーファンクルがカバーしたサム・クックの名曲「ワンダフル・ワールド」。そのタイトル通りに集まった人達は幸福そうな表情で、泡影や五凛などのお酒に舌鼓を打ち、会話を楽しんでいた。

イベント終了後、テクニクスのみなさんと

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