Blue Bar ~ 蒼い夢に酔える場所

金沢工業大学にアナログ・レコードの保存を目的としてライブラリーを作ることを提唱し、実現してから40年余り。ユーミンからの1本の電話がきっかけで音楽からアート、文学から能…までがミクスチャーするプロジェクトがスタートしてから6年余り。その間に知り合いも増え、行きつけの店もかなりの数になったが、そうした流れの中で“Blue Bar”のオーナー、竹林健一郎さんと知り合い、金沢の町の路地にさりげなく家を構えて、心赴くまま名酒に酔い、程よい会話の興趣に、精神自由自在となる“至福の時間”の体験を深まりゆく独自の文体で描出した吉田健一の名篇「金沢」の主人公である内山と骨董屋のような、何ともいい感じの関係になり、築100年になるという片町伝馬商店街にある古民家に移転し、“Blue Bar 藍”に進化する時にプロデュースを頼まれたことはひとつの到達点だったようにも思える。音楽とか映画、お酒や料理の好みで同じ“種族”だなと感じられる人と、言ってみれば“シャングリラ=桃源郷”のような場所を創る喜び。

僕が片町の裏通りのビルの2Fにあった“Blue Bar”に初めて足を踏み入れたのは、ほんの2年半ほど前のことで、そんなに長い時間は経っていないが、その時に程の良いボリュームで流れていた(BARの音楽のボリュームというのは大き過ぎてもうるさくて駄目だし、小さ過ぎると、これまた安物のBGMのようにしか聞こえないのである)レイ・チャールズの歌が何ともいい感じで、マーティン・スコセッシ監督の名作「グッドフェローズ」の画面の中にいても、まったく違和感がないだろうというたたずまいの竹林さんがピタッと合っていて、いきなり“好きな酒場”のベスト10入りをしてしまい、それからはアナログ・レコードとCDが並ぶ棚を漁り、好みのシャンパンやワインの話を世間話でしているうちに、1軒の家が僕達を呼び寄せてくれた気もする。

だから、改装の作業はきわめて順調に進んだ。まず考えたのは余計な装飾などせずに、いかに100年前に建てられた情緒のある家を甦らせるかということ。店内は勿論のこと、窓から見える小さな庭の景色、喫煙者が快適に気持良く喫煙を楽しむことが出来る空間も必要だし、完成に近づいてきた頃には竹林さんと2人で、“藍”に合うレコードをしっかりとセレクトして、極上のオーディオ・システムでチェックする作業にもたっぷりと時間をかけた。

僕がまず選んだのは、レイ・チャールズが遺した夢のデュエット・アルバム「ジーニアス・ラヴ」とレナード・コーエンの永遠の名盤「テン・ニュー・ソングス」、それにビリー・ホリディ。B.B.キングの「ブルース・オン・ザ・バイユー」は竹林さんも速攻でセレクトしたが、レイ・チャールズと「楽しかったあの頃」をデュエットしているウイリー・ネルソンの名盤「スターダスト」や「ジーニアス・ラヴ」のオープニングを飾っている「ヒア・ウイ・ゴー・アゲイン」をレイと一緒に歌っているノラ・ジョーンズの「ティル・ウイ・ミート・アゲイン」もそこに続いた。レナード・コーエンが好きな歌手として名前を挙げたニーナ・シモン(ちなみに他の2人はレイ・チャールズとビリー・ホリディ)の「ヒア・カムズ・ザ・サン」が入ってきたのも、「よっ!Brother!」という感じだ。

そして、こんなふうにいいレコードを選び、おいしいお酒と食べ物を気ばらないで楽しむ。それができるのがいいBARなのだが、残念なことに日本広しといえども内装から照明、かかっている音楽、供される酒や料理、という条件を全て満たしているBARは中々ない。

それをガチガチにやり過ぎると居心地がよくなくなるし、BARにはアッと思うような意外性も必要だ。ある晩、若い頃の旅の思い出をしていて、ふと思いつき、レナード・コーエンの歌と美空ひばりの「哀愁波止場」を続けてかけた時のマジカルな化学反応は本当に忘れ難いものだった。

とにかく「バーは生き物だ!」という名言を口にした竹林さんとは、これからもいろいろな仕掛けを考えていこうと思っているが、最初に足を踏み入れた時から、ここは最高におもしろい空間になると思った2Fの和室が間もなく完成するのもうれしい。鮮やかな青に塗られた壁。金沢では“群青の間”と言い、僕が心から敬愛する金沢が生んだ文豪、泉鏡花もこよなく愛した空間だが、それが“藍の間”となって時空を超えて甦るとなると、またたくさんのエピソードが生まれそうだ。昨年2021年の夏至の日にオープンした“Blue Bar 藍”は今度は“官能”と“悦楽”という新しい武器を手に入れることになる。

そのオープンの夜にはレナード・コーエンやセルジュ・ゲンズブール、泉鏡花やビリー・ホリディ、マンディアルグや寺山修司……を天国から招待して終わらない宴会を楽しもうかと思っている。その前には8月13日に赤羽ホールでピーター・バラカンと一緒に“円盤寄席”という楽しいイベントをやるので、当然その夜は予行演習のようなおもしろい夜になりそうだ。

PICKUP

Blue Bar 藍

住所:920-0981 石川県金沢市片町2-29-5
電話番号:076-224-2774
営業時間:18:00~3:00(L.O 2:00) 日曜定休日
ホームページ:https://bluebar.jp/

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