始まりはユーミンの電話から


あれからもう丸6年が経つのか、、、それが改めて資料をみた時に口をついて出た言葉だった。ユーミンから突然電話がかかってきて、「元気?」と言った後に「頼みたいことがあるんだけど、断らないで聞いてくれる」と明るく言い、「わたし今、石川県の観光アドバイザーをやってるんだけど、ミーティングで『金沢にはプログレッシブ・ロックがよく似合う』と言ったら、受けちゃってね、だからそれを具体化しなきゃならないのよ。わたしはアイデアは出せるんだけど。現実化するにはあなたが必要なの」と言葉が続いた。

何というひらめき。ユーミンと僕のピンク・フロイド・フリークぶりはつとに有名だが、僕はその時、夜の闇の中に浮かび上がる石川門や黄昏の時間に見る美しいしいのき迎賓館の姿が瞬間的に頭に浮かんだ。ただロックではなく“プログレッシブ・ロック”という言葉と金沢の親和性。それから半年も経たないうちに本多の森ホールでLUNASEAの河村隆一やSUGIZO、TOKUやシシド・カフカ、、、といった人気と実力を兼ね備えたミュージシャンが集まり、オーケストラアンサンブル金沢も参加して、ロックの名曲をカバーするという<ロック・スーパー・セッション>が実現し、同時にロック・アーティストの写真を撮ったら世界でも5本の指に入る鋤田正義の展覧会も開催され、なおかつ渡辺香津美、SUGIZO、沖仁という3人のギタリストによる<ギターサミット>も実現、締めとしてユーミンと2人で<ユーミン・トークス・ロック>というロックの名盤を聴いてその魅力を語るというイベントも形になって、金沢=石川はロック!というイメージが一気に具体化したのである。

その後はもう加速がつき、金沢城の五十間長屋では鋤田正義のデヴィット・ボウイ写真展がSUGIZOのソロのギター・パフォーマンスという夢のようなオマケつきで実現時し、玉泉院丸庭園ではピンク・フロイドやユーミンが影響を受け、40周年の時には日本で共演コンサートも実現させてしまったプロコル・ハルムにキング・クリムゾンといったプログレッシブ・ロックの顔のようなバンドの名曲をライト・アップに合わせるという夢のようなイベントも形になり、これは毎年続く、2月の風物詩になっていった。

今でも忘れられないのは、2回目の時に多分関西から来ていた女の子がデヴィッド・ギルモアのギターがキーンと響いた途端、「何だかようわからんけど、エロくてええなあ~」とつぶやいて陶然とした顔をしていたこと。しいのき迎賓館で<レッツ・プレイ・ピンク・フロイド>というレコード・コンサートをやった時は、毎回早めに来てセンターの1番いい席に陣取っていたピンクのジャージ姿の50代後半か60代前半のナイスな人が「いやあ、メルセデスが買えるくらいのオーディオって凄いもんやね。ホントにいい想いをさせてもろうたわ」とうれしそうに言って熱い握手をして帰っていく後姿がこちらまでいい気分にさせてくれたし、金沢城の鶴の丸休憩所ではピンク・フロイドの1983年のアルバム「ファイナル・カット」のジャケットにクレジットされていた“オーディオ・ヴィジュアル”という言葉の意味がテクニクスのハイエンド・オーディオ・システムで再生されたことで35年という長い時を超えて初めて理解でき、余りの深さと美しさに思わず涙してしまったほどだが、同じ時にかけたフレディ・マーキュリーとモンセラット・カバリエが共演した「バルセロナ」では何人もの人が涙を拭いていた。

そして、その時は折からの雪。城のシルエットと溶け合うロックの素晴らしさは、ユーミンの「金沢にはプログレッシブ・ロックがよく似合う」という言葉をフラッシュバックさせ、僕には彼女が予言者のようにも思えたほどだったが、他にも様々なイベントを続けながら、そのひとつの到達点として去年(2021年)にはピーター・バラカンとレコードをかけながらトーク・セッションをするという<レコード寄席>なるイベントが実現するに至ったのである。

それ以前に映画の上映前や上映後のトーク・イベントを一緒にやる度にロックに限らずジャズからブルース、ワールド・ミュージックに至るまでのジャンルについて、同じ“種族”だなという思いが深まっていったので、いつかどっぷりとセッションをしたと考え始めた。その結果は想像していた以上。僕とピーターは2つ違いだが、60年代に入ってビートルズが登場し、ローリング・ストーンズやアニマルズといったバンドが後に続いた“黄金時代”に東京とロンドンでそれぞれその音楽の洗礼を受け、そこからロックン・ロールやブルース、R&Bの旅を始めた僕達の会話はとてもいい感じで絡み合い、そこでレコードをかけると、マジカルな化学反応が起きた。

今でも忘れられない寄席のお客様達の楽しそうな顔、顔、顔。スタジオ盤はテクニクスのハイエンド・オーディオで、ライブ盤はホールのPAで再生するというアイデアもうまくはまり、赤羽ホールは、時空を超えた音楽旅行空間へと変貌したが、今年の夏はもっと凄いことになりそうだ。

開催されるのは8月13日の土曜日。それから約2週間後の24日がローリング・ストーンズのドラマーだったチャーリー・ワッツの一周忌であることを考えると、入り口はストーンズからブルース、チャーリーがスキだったジャズあたりになるだろうが、それがどう発展して進んでいくかは、文字通りGOD ONLY KNOWS。終了後はBlue Barで”終わらない夜”につながっていきそうだが、金沢と音楽の話について書き始めたら本当にキリがない。

そして、金沢に限らず、海や山、、、。あらゆる要素に恵まれた石川県はドライブをしながら音楽を聴くのに最高の県かも知れない。これについてはゆっくり書くことにしよう。

PICKUP

円盤寄席 ~音楽の聴き方~ ピーター・バラカン/立川直樹 「創るより選ぶほうがずっと難しい」とはある目利きの名言。

ほぼ半世紀以上〝良い音楽〟を選びメディアを通して紹介し続けてきた二人がステージで語り、ライブと同じ音響システムでレコードをかけ、音楽を聴く究極のスーパー・トークセッション

◆日時:2022年8月13日(土)
◆開演:17:00(開場16:30)
◆会場:北國新聞赤羽ホール( http://www.akabane-hall.jp/ ) 
◆チケット料金(税込):全席指定 3,000 円

【主催】北國芸術振興財団、エフエム石川
【共催】北國新聞社、(一財)石川県芸術文化協会
企画制作:立川事務所
協力:テクニクス

BACK

TOPへ戻る